京都造形芸術大学通信教育部芸術教養学科での課題で、「博物館経営論」について考察しました。
(課題レポート提出時である2019年5月時点のままです。)

お題は、「ミュージアムを新たに建設するとして、その構想書を作成しなさい」です。
日ごろの思いから、妄想を膨らませてみました

新ミュージアムの概要

(1) 名称

にこたまライジングフォトアートミュージアム

(2)立地

二子玉川駅、及び、大規模商業施設「RISE」区画内または周辺

二子玉川RISE

(3)-1 設置者

RISE周辺の大手インタネット企業など民間企業(第一希望)
又は世田谷区。

(3)-2 運営母体

アートフォト専門(又は造形の深い)ギャラリー。
世田谷区が設置者となる場合には、指定管理者による委託。

(4) 施設

ミュージアムの基本機能である「収集、保存、調査研究、普及、展示」を満たすために以下の設備を具備する。

大塩貴文『まなざし』
  • 収集・保存のための収蔵庫とその付帯設備、作業室・準備室。
  • 展示のための展示室・スペース特にハード(印刷、額装された「現物」)を展示・閲覧できる場所と、ソフト(デジタル画像や動画、「原版」)を視聴覚できる場所があり、それを同時に比較しながら視聴できる仕組みが望ましい。
  • 室内・屋外の双方を想定する。
  • 上記に関連する照明、投影機器等の設備。展示の準備の為の作業室(印刷、現像室)。
  • 調査研究・普及のための図書室、研究室、会議室、講義室、視聴覚室(個人での視聴やデジタルアーカイブの検索)、多目的スペース(少人数での討議や会話のできる場所)。
  • その他運営(総務系機能)の為のバックヤード設備。
アキラ・タカウエ『MYSTIC-SKYLINE』

(5)コレクションの内容

日本国内を中心にアートフォト、フォトアート(写真を使った芸術作品)作品を発表しているアーティストであり、まだ国内・海外のプライマリーマーケット、セカンダリーマーケットの形成されていない(又は、価格の低い)アーティストを対象とする。

  • 以下のようなテーマ別に収集する(収集時にタグ付けする)。
  • ランドスケープ
    (自然だけでなく都市、街並など人工物を含む風景・全体像を主題)
  • ネイチャー(動植物を主題)
  • アーティフィシャル(人工物を主題)
  • ポートレイト・ヒューマン(人物、人を主題)
  • イベント(モノではなくコトを主題)
  • マインド(ココロを主題)
  • アブストラクト(その他抽象的な何かを主題)
栗田ゆが『メルト』
安斉紗織『錦秋』

以上の当てはまるアーティストとして、
アキラ・タカウエ安斉紗織栗田ゆが柴田祥藪崎次郎ジョバンニ・ピリアルヴ大塩貴文山本高裕、など
SNSを中心に発信しているアーティストを考える。
(敬称略・順不同)

(6)年間行事計画の概略

展示行事としては、コレクションの常設展の他に、企画展としてコレクションアーティストの新作のみで行う個人展、グループ展を2ヶ月に1度程度実施する。
個人展、グループ展においては、該当アーティストによるトークセッションを行い、作品の意図、作成時の苦労などを共有する。

山本高裕『夏の匂い』
藪崎次郎『幻化薫風』
ジョバンニ・ピリアルヴ『Meravigliando』

また、半期に一度程度で上記コレクションの内容の範疇において、運営者及びコレクションアーティスト(の一部)が審査員として選考する公募展を行う。
公募展において入賞した作品、作家は、当館にて買い上げて、以後のコレクションに追加する。
また、アーティストによる撮影会やアーティストと一緒に撮影する、等の共同作業的なイベントも企画展や公募展のない月に実施する。

柴田祥『奇岩と鴉』

普及行事としては、フィールドワークとして撮影教室(フォトウォーク)だけでなく、加工技術教室(編集やレタッチ)、印刷教室等を、コレクションアーティストを講師として実施する。実施の頻度は、月に1回程度とし、この際に、子供向け、女性向け、高齢者向けなど、対象者をグループ分けして行う。

アキラ・タカウエ『The Portal for Urban District』

行事運営の大きなポイントとして、オーナーシップ制度を取り入れたいと思う。

オーナーシップ制度とは、常設展や企画展及びその他イベントの利用料(入場料)を払う代わりに、利用者にお気に入りのアーティストを選んでもらい、その作品のオーナーになってもらう(所有権の一部をもつ)仕組みである。

山本高裕『藤色(ふじいろ)』
栗田ゆが『Heart of Gold』

当該アーティストの関連行事には優待で参加できることや非展示期間のレンタル(自宅や事業所での展示)などの特典と共に、当該アーティスト又は作品の価値が上昇し、手放すことになる際には、それなりの利益(キャピタルゲイン)も享受できるという制度である。
この制度を活用することで、利用者にも積極的にアーティストの価値向上活動に関与してもらうという考えである。

(7)館建設の意義と館の特徴

意義と特徴については、「なぜ、アートフォト、フォトアートか」「なぜ、にこたま地区か」に分解して論じたいと思う。

「なぜ、アートフォト、フォトアートか」。

今やインスタグラムを始めとするさまざまなメディア・ツールの発達に伴い、「写真」は、撮って公開する側(見せる側)も見る側も、人数、その繋がりの範囲が全世界規模となっており、誰もが俄か「フォトグラファー」になれる時代である。

安斉紗織『花音』

その一方で、「写真」の芸術性について、写真が誕生してから長らく論じられてきている中で、アメリカなど海外では芸術としての評価が高まり「アートフォト」市場も形成されているものの、日本では認知度や評価、いわんや市場(ギャラリーやアーティストが売り出しを行うプライマリーも、購入者からの買取再販やオークション(対面、インターネット)のセカンダリーも)の形成についてはまだまだ未成熟な状態(特に絵画との比較において)である。
そのような中で、世界で勝負できるアートフォト、フォトアートのアーティストを育成する場を提供することは、日本の芸術・文化の幅を厚くするだけでなく割安な価格のうちに収集し、自らの活動で普及し価値を高めることで「投資」としてのビジネスにもなりうる分野と考えるからである。

「なぜ、にこたま地区か」。

二子玉川地区は、自然との共生を意識しながら作られた人工の「まち」であり、比較的収入の高い若い世代の多い「まち」である。当然ながらインスタグラム等SNSへの利用時間も長い事が考えられ、写真、デジタルアートを身近に感じられる世代でもあると考えるからである。また、現在の大規模商業施設「RISE」には、インターネットビジネスの雄の本社があり、先端的な動向に関する許容度も高い。
また、「RISE」の名前も、将来性のあるアーティストのためのミュージアムにぴったり

柴田祥『めらはんど』

更に、この「まち」を利用する世代はクラウドファンディングなどインターネットを通じたビジネス形態にも抵抗の少ない世代でもあると考えられるので、これから世界に向けて伸ばしていきたいアーティストのオーナーになるというようなスタイルを受入れやすい「まち」だと考えるからである。

背景

上記のような考えに至った背景は、以下の通り。

にこたま地区は、東急グループにより開発された地域であり、東京でも文化の発信地とされる渋谷、自由が丘にもそれぞれ電車一本でつながる利便性の良い地区である。そして、近年人口の流入が続き、世帯構成が若く(30代が多い)、世帯収入も比較的高い事が特徴である。

藪崎次郎『響』
大塩貴文『涼音』

近隣の既設館としては、岩崎家(三菱グループ創始者)のコレクションとして「曜変天目」等も所蔵している「静嘉堂文庫美術館」五島家(東急グループ創始者)のコレクションとして「源氏物語絵巻」等も所蔵している「五島美術館」世田谷区ゆかりの作家の作品をコレクションの柱として北大路魯山人の作品等を収蔵するユニークな企画展で注目を集めることの多い「世田谷美術館」がある。

ジョバンニ・ピリアルヴ『Impetuoso』

三館については沿線の動脈を司る東急グループとの共同企画である「せたがや3館めぐるーぷ」という、三館同時開館日休日には、二子玉川駅を経由し、三つの美術館を巡回する路線バスも設定されており、利用者への利便性を提供している。
もちろん、三館とも「東京・ミュージアム ぐるっとパス」(東京を中心とする95の美術館・博物館等の入場券・割引券が1冊にまとまったお得なチケットブック)に含まれており、価格面での利便性提供も考えられている。

大塩貴文『流桜』

担当教官からのコメント

以上のレポートに対して、担当の先生からは、下記のアドバイスをいただきました。
実現の際には、併せて取り組みたい点です。ありがとうございます。

  • 技術の革新がめまぐるしいこの時代において、10年、50年、100年後のプランをどのように考えるのか。
  • アーカイブと調査研究について方針を立てるのかについてもう少し詳しく考えを聞きたい。
    時代が動くにつれ調査対象が無限に増加していくが、そこに線を引く方針を示すことで、さらにそのミュージアムのミッションが明らかになる。
濱中仁『夏の微笑み』

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安斉紗織『紅の華』

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