毎年この時期に根津美術館で展示される国宝指定作品、尾形光琳の「燕子花図屏風」。
根津美術館でも代表的な所蔵品とその展示のコンセプトを担当の学芸員の方が解説してくださるとのことだったので参加しました。(於:根津美術館講堂 解説者:野口剛氏(根津美術館学芸第一課長) 2019年4月26日)

印象的だったお話し、トピックについて、備忘替わりのメモを。

今回の特別展は、

  • 王朝文化への憧れ
  • 草花を愛でる
  • 名所と人の営みを寿ぐ

の、3つをサブテーマとして掲げている。

『王朝文化への憧れ』

  • 「源氏物語図屏風」
    若菜(上)、若菜(下) (光源氏の栄華の頂点の時)を題材としている。 婚姻の調度品とされた。
  • 江戸時代の様々な文化、武家文化、庶民文化の底辺に王朝文化への憧れが流れていた。
  • 「観雪図」
    まくらとして、枕草子の一辺にある中宮定子から「香炉峰の雪」について尋ねられた時の清少納言の対応のくだりを用いている。
  • 「桜下蹴鞠図屏風」
    江戸初期の俵屋宗達の工房の作とされている。町衆の要望によって作られたと言われており、町衆の王朝文化への憧れが分かる。左右非対称である点は、光琳の作品に引き継がれている。

『草花を愛でる』

「燕子花図屏風」

  • 草花図の六曲一双の屏風図であるが、単にかきつばたを写生したのではなく、
    有原業平が、伊勢物語の中で、八橋(現在の愛知県知立市八橋町。愛知県の県花が「かきつばた」である故でもある。)で詠んだ句
    「から衣 つつなれにしましあればるばるきぬるびをしぞ思ふ
    を題材に描いたと言われている。
  • 屏風の折れ目の頂点に花の頂点を持ってくることで、華やかさを増している。
  • 群青、緑青を多様しており、何度も塗りを重ねることで、盛り上がって見える。
  • 花の形状は部分的にはパターン化されて繰り返しが見える。しかし、明示的ではなく、隠されている。 江戸版画の影響だろうか。
  • 「草花図屏風」
    江戸時代始めに草花愛好ブームが宮廷でおきた。
    俵屋宗達は、町衆を相手にしていたが、宮廷にも名が知られ、後水尾天皇などからも作品を愛好されるようになっていった。作者と言われる喜多川相説は、俵屋宗達の工房で宗達の二世代後の作家。(「伊年」という印から工房による作とも言われる。)
  • 「夏草図屏風」は光琳晩年の作品。ここにも燕子花が描かれているが実態に近い形態があり、写生的な要素が強い。
    渡辺始興という弟子が担当していたのではないかとも思われる。
    渡辺始興は、近衛家に仕えていて、写生の祖とも言われる 円山応挙が、尊敬したのも渡辺始興。
    俵屋宗達 → 喜多川相説 → 尾形光琳 → 渡辺始興→ 丸山応挙 と続く五人の系譜

『名所と人の営みを寿ぐ』

  • 京都を主題とするもの、名所にある社寺を主題とするものの2つが主流だった。
  • 「洛中洛外図屏風」
    京都の市街(洛中)と郊外(洛外)の景観を鳥瞰的に描き、そこでの人々の営みを細やかに描き込む。とくに、祇園祭の山鉾巡行と神輿渡御に描写のウエートが置かれている。
  • 「伊勢参宮図屏風」
    根津美術館にあるのは内宮を描いている、名古屋市博物館にある伊勢参宮図は外宮を描いたものがあり、構図までそっくり。
    今回の展覧に当たって修理を行い、更に準備の過程でこの2つが一双の対である事が判明した。
    細かく観ると、名古屋の方は外宮に参拝者がたどり着くまでの風習を描き、根津美術館の方はその続き、内宮に到達、参拝後の宇治橋の歓楽の様子も描いている。
  • 「伊勢参宮道中図屏風」
    京都蹴上から出発して大津を経て草津、関までの東海道を進み、津、松坂を経て伊勢に至るまでの工程を描いている。これも、調査の過程で発見できたことであり、従来からの作品名を変更した経緯を持つ。
  • 「宇治図屏風」
    平等院が主題ではなく、江戸時代に隠元禅師によって開かれた禅寺萬福寺を主題にしている点が、当時の時代性を反映している。

根津美術館は、その庭園でも有名です。訪れた時には、かきつばたの咲き始め。藤の花が綺麗でした。GWには見頃のようです。ぜひご訪問ください。

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