京都造形芸術大学通信教育部芸術教養学科での課題で、「映像の存在意義」について考察しました。
(課題レポート提出時である2019年12月時点のままです。)

課題の正式な内容は、以下の通り。
人間の知覚とカメラという機械の知覚の本質的な差異を明らかにしたうえで、映像の存在意義について、1600字程度で自由に論じなさい。

「映像」と言っても広範にわたるので、自身にとって興味のある「Fine Art Photography」を題材としました。

「人間の知覚」と「カメラの知覚」

 人間は、究極的には、「視たいものを視て、身体(脳)に残す」のであり、カメラは、「視えるモノ全てを視て、外部に提供する」のである。ということが人間の知覚とカメラの知覚の差異を端的に表していると言えるのではないだろうか。

 人間の眼は、行動の有用性を尺度に目の前に在るものを「縮減」して視る。物理的には眼に入るはずのものでも有用性がないと経験に基づいて瞬間的に判断されれば、目に映らない(映らなかったことになる)。それは、観者の脳内に留まり、外部に出ることはない。

 一方、カメラは、対象となるモノをその認知能力の可能な限りに微細に渡って全てを認識する。また、その範囲においても認知可能な全ての範囲を濃淡の差なく認識する。そしてその結果を外部に出す、アウトプットする。このアウトプットの必然性が、共有可能性を持つという点を、差異であり特徴として生み出す。カメラの映像は、現実をある時点(瞬間に近い場合から数時間にいたる場合もある)で切り取った(特定の枠組みにあてはめた)情報であるが故に、同一の内容を多数の観者と共有することができる。しかし、あくまでも映像は、「観られて何ぼ」である。造られた映像もそれを観る人なしには存在しないのであり、観者の主観を介するということで完全に客観的な映像というものは存在し得ない。

これらの差異に関連する技術を進化させて、映像における「深度」・「範囲」・「時間」の制御を人々は可能とした。人間の視覚では意識しない細部を明らかにすることや、人間の視覚認識機能・特質(弱点)を利用した映像に立体感を持たせるなど深みを持つことも可能とした。そして、フレームという制約は持ちながらも、切り取る(入れ込める)範囲を拡大・縮小可能とした。クローズアップやパノラマビューである。また、より短い時間間隔の状態を切り出す、または、より長い時間間隔の状態を切り出しとどめる、という事も可能とした。

「アキラ・タカウエ」作品を事例にして

 このような差異認識と特徴について、アキラ・タカウエ(アーキテクチュラル・ファインアートフォトグラファー)の写真を例にみたい。
 「アーキテクチュラル・ファインアートフォトグラフィー」とは、構造工学や景観理論に基づく論理的で精密な構図に芸術的要素を加えたアートフォトの一分野。日本では根付いていない面もあるが、世界規模の国際写真コンテストでは既に確立されており、工学博士号を持ち、一級建築士でもある彼の作品は多くの賞を受賞しており、日本のみならず世界レベルで当該分野の第一人者である。日本では、東京のIsland Galleryにて、2016年3月「コンセプチュアル・アーバンスケープ」、2019年6月「コンセプチュアル・アーバンスケープⅡ」という二度の個展を開催している。本レポートではその中から2回目の個展出展作品である「Waltz with Sydney Harbour Bridge」を取り上げたいと思う。

  • 「深度」としては、人間の眼では到底認識できない橋の橋梁の細部や橋の袂の看板の文字等を認識することができる。
  • 「範囲」としては、ハーバーブリッジとその周辺を観たい人間は意識しないであろうシドニータワーと周辺の高層ビル群が明確に写っている。
  • 「時間」としてはシドニーハーバーを行き来するボートを一定時間露光して切り取ることで人間の眼が直接では視ることのできない「ボートたちのワルツ」を創造している。

「映像の存在意義」そして、「 Fine Art Photography 」

 以上のようなカメラの知覚を利用して造られたモノ=映像は、社会において欠かすことのできない存在となっている。その範囲があまりにも広範にわたり、もはや存在意義を意識しないぐらいと言っても過言ではないと考える。
 その多くは、映像が「深度」・「範囲」・「時間」を制御してアウトプットできる(記録できる)ことに依拠しているだろう。この特質と、別途進化を続けるコミュニケーション手段(インターネット、SNS等)と相俟って、映像は人々の社会生活に浸透している。

 その中で、上記の事例に絡めて、芸術分野において発揮されている映像の存在意義について少し考えたい。芸術作品を創り上げる工程における手段、ツールとしての活用は「写真」の誕生する以前の「カメラ・オブスキュラ」の時代から利用されていたが、作品として映像、カメラの創出した映像が広まってくるのは、あまたある芸術作品の分野と比較すると古いものではない。特にファインアートフォトの分野の浸透度は低い。しかし上記の事例で紹介したように「深度」・「範囲」・「時間」共に人間の眼では観る事のできない情景を描き出してくれる作品は、人々に新たな驚きや感動を与えてくれるものであり、今後ますます存在意義の高まっていく分野と考える。

【参考文献】
日高優編 「映像と文化 知覚の問いに向かって」京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎 2016年

アキラ・タカウエ公式サイト
https://www.akiratakaue.com/

IslandGallery公式サイト
http://islandgallery.jp/

ギャラリー(Island Gallery)における紹介サイト
http://islandgallery.jp/akiratakaue

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