京都造形芸術大学通信教育部芸術教養学科での課題で、「写真芸術」について考察しました。
(課題レポート提出時である2017年8月時点のままです。)
1839年にルイ・ジャック・マンデ・ダゲールにより発明されフランス学士院で発表された「ダゲレオタイプ」が世界初の写真撮影方法とされる。この頃から、写真と芸術(アート)との関連に関してはさまざまな動きがある。写真の持つ重要な機能である「記録」や「伝達」及び「表現」に焦点をあてて芸術の領域に活用するという点に関してだけでも、特にIT社会となった今、ネット上のヴァーチャル美術館を初めとしてさまざまな議論が可能であろう。しかし、本レポートではそのような「手段」としての写真と芸術の関わりではなく、「芸術写真」(Fine Art、Art Photo)というコンテンツ(作品)としての写真と芸術の関わりに関して一考したい。
芸術写真の在り方については、いくつかの流れがあるが、大きくは2つに分けられる。
1つは、絵画主義(ピクトリアリズム)と呼ばれる流れである。絵画の規範を写真作品に持ち込むことで、写真作品の芸術性を追及していこうという動きである。狭義の「芸術写真」(特に日本語の意味で)は、このピクトリアリズムが特に盛んであった1900年代初頭の作品を示す。
もう1つの流れは、写真のフォービズム、モダニズムと呼ばれる動きである。これは、写真というメディアに固有な、写真だけが可能なことを追求して作品を仕上げるというスタンスである。
この大きな2つの動き(手法)は、初期のピクトリアリズムから、モダニズム、ポストモダニズムの流れを経て、その中間的なさまざまな手法が存在しているのが現在の写真芸術の状況である。
特に、デジタル技術、ネットワーク(インターネット)等のIT技術が高度に発達した現在は、提供手法(プリント(写真集、写真展)だけでなくSNSへの投稿等の電子的手段を利用)も多岐にわたり、その表現内容は作者(写真家)の想像力・創造力により無限の可能性があると言える。
このような中、写真の主要機能である「複製可能性」が、芸術写真の構成要件として重要であると考える。
いわゆる「一点モノ」なのか、大量生産製品なのか、ということである。写真作品は撮るだけではなく、それを印刷するまでの技術によって出来栄えは大きく変わるし、それをコントロールすることで作品自体、全く印象の異なるものとして仕上げることが出来る。プリント工程においても作者の意思が表れ、その結果、同じ原画からプリントしたものであったとしても異なる作品(エディション)が生まれ「一点モノ」となる。
この点を適確に実践している手法として、彩色写真画に注目している。これは、デジタルカメラで撮影した写真をモノクロームに現像しプリントしたあと、直接絵筆によって彩色して仕上げるという手法である。明治文明開化の時期に「横浜写真」として日下部金兵衛により有名となった手彩色写真と異なり、デジタルカメラによる高解像度での撮影原画を元とするので、通常であれば人の眼には及ばない木目の細かいレベルまで表現された下絵に彩色されて作品として仕上げられている。まさに一枚一枚がオリジナルの「一点モノ」となる芸術作品であり、「写真」ではなく「写真画」という表現が適切な、写真芸術の新たな領域として注目している。
課題レポート作成時の必読本
林洋子編 「近現代の芸術史 造形篇Ⅱ アジア・アフリカと新しい潮流」
京都造形芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎 2013年
本課題レポートを下地に、手彩色写真画家の安斉紗織さんを紹介させていただいた投稿は、こちら。
本課題レポート作成時に、参考とさせてただいたサイトは、以下の通り
「日本の芸術写真──写真史における位置をめぐって」
特別講演録(2011年4月16日)
https://topmuseum.jp/contents/images/info/journal/kiyou_11/03.pdf
『GOOGLE+ 三人写真展 THE THREE MEN EMERGE』開催に向けて
イシジマヒデオ Island Gallery 主宰
http://hideochan.com/7683
http://hideochan.com/profile
「記録写真」と「作品」の違いから理解する3つの基本概念
写真家 二見匡彦
http://fuuryuu.jp/technique/basic
http://fuuryuu.jp/profile
芸術写真「ファインアート・フォトグラフィ」
山田視覚芸術研究室
https://www.ggccaatt.net/2016/09/30/写真/
これが明治時代…!? 彩色写真家・日下部金兵衛が写した美しい日本
https://matome.naver.jp/odai/2140232793247212301
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