2019年2月17日(日)13:30〜17:00
会場:東京大学本郷キャンパス法文2号館1番大教室

このフォーラムは、
東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究室の修士・博士1年生が1年間の授業として企画するもの。
テーマは自由だけど、最後に公開することが必須条件。2018年のテーマに選ばれたのが、このテーマ。

2018年5月に東大生協が東京大学中央食堂に展示されていた宇佐美圭司『きずな』を廃棄していたことが発覚したことも、
本テーマ選択の要因になった模様。
示唆に富む内容だったので、備忘を兼ねたメモを。

【関連するイベント】

●「リーディングミュージアム構想」 2018/5/19 YOMIURI ONLINE

「リーディング・ミュージアム」の仕組みは以下の通り。まず指定された「リーディング・ミュージアム」が、アートフェアやギャラリーなどから作品を購入(あるいはコレクターから作品の寄付を受ける)。その購入作品の中から一定数をオークションなどで売却し、市場を活性化させる。この仕組みは、「美術館が作品の価値付けのためだけに利用される恐れがあり、展示・収集・保管・研究・教育といった美術館本来の機能にも大きな影響を与えかねない」という意見もある。
オンライン版「美術手帖」 該当ページ より)

●鳥取県、北栄町みらい伝承館 「お別れ展示」

2018年 8月、鳥取県北栄町の北栄みらい伝承館(北条歴史民俗資料館)では、収蔵品の民具 562 点の処分または希望者への譲渡を前提に「お別れ展示」を開催し、473点を譲渡した。収蔵庫がいっぱいで、新たに収集できなくなっていたというのがその理由だった。

【作品の公共性とアクセシビリティ】成合肇氏(東京ステーションギャラリー学芸員)

●「お別れ展示」への解説

  • 「お別れ展示」実施の背景の補足
    2010年に戦後初めて博物館は減少。専門的職員が配置できない、育成できない。長期ビジョンが描けていない。ストレージコストが予想外に超過、等が理由とされている。
  • 博物館は、大量生産品に対しても時代を意識する為、保存する必要がでてきてしまう。
    →「資料」という扱い。ちなみに、美術館では「作品」
  • 図書館では除籍は当たりまえ。収集と除籍は同じ思考プロセス上にある(べき)。
    「除籍(図書館)」Wikipedia

●『オプショナルアートアクティビティ404』企画:成合氏

  • 作品の無い展覧会。404は、Webのエラーメッセージ(Not Found)から。
  • 宇佐美圭司『きずな』の事件(宇佐美圭司「きずな」の東大生協による廃棄)・・・
    物の所有者が、所有権の行使として廃棄することは問題ない(モノの問題)、ではなく、
    著作権の問題なのでは?(20条。壁画などは建物の改修が発生するのであれば許される)
    けど、それでよいのか?
  • 遺族の持っている設計書だと分割して取れることが分かっていた。
    →廃棄した関係者も、それを報道したマスコミも触れていなかった。
  • 以上を踏まえて、、、
    「作品がなくなる」(盗まれる、消失する)というのはゼロかイチではなく、
    途中のグラデーション的な状態があるのではないか、、、という視点で開催した展示会
  • 名画として切手(切手趣味週間)になっているようなものなのに、個人蔵で、半世紀近く誰も見れない、という「死蔵」問題
  • リチャードセラの作品は、東京ビエンナーレで上野美術館で路上に埋めた作品(屋外展示)。その後、捨てられそうになり、多摩美の学生が拾った
    →これは、作品として生き残っているのか、、、
    捨てられて死ぬところだったのがホルマリン漬けに近い状態、それが正しいのか、、、
  • 404は、単に批判だけではなく、いつか繋げていくという、期待を込めている。
    重要無形文化財(人間国宝)は、人間の持つ技術に対する価値。その技術は今は伝承・再現できないかもしれないが、いつかは分析・再現できるかも。

●公共性、アクセシビリティ

  • たんに存在するだけでは意味がなく、アクセスできるかどうかが、問題。
    ミュージアムは、アクセスできるようにしているのか。その手段としての展覧会は、どうなのか?
  • 現在は、アクセスシビリティについては、逆光しているのでは、、、展覧会の有料化が典型例。
    かってはインターネットや施設自体も少なく公共性(アクセシビリティ)がなかったが、今や、それが克服できるようになったにも関らず、公開へのためらいが見られる。
  • 公共性の反対としての忘却・秘匿・死蔵されること、に抵抗していくことが美術館の役割だと考える。
  • ユニークピースが、一極集中してしまうことのリスクがあり。(→アート作品に強い)

    コピーされることで「保存」「公開」によるアクセシビリティが確保できるという点がある。
    (本質的な点を読み取り、そのコピーや保存には「治外法権」を認めていくという方向性脱ユニークピース
    その視点で考えると、大塚国際美術館の実践(コピーばっかり)はその一例なのか。。。

●参考文献

【学生報告 「北栄町の事例は、どのような示唆を与えているのか?」】

●欧州における除籍と処分との関係

  • 処分の4つの動機
    実務的動機、財務的同期、学芸的動機、哲学的動機 (ウェイスミラー)
  • 実務的動機や財務的動機には拒否反応がでるが、長期的にみて、他の作品の保存状態が悪くなってしまうのであれば、やむ得ない(むしろ必要)なのでは。
  • 欧米でも財務的動機が突出している場合、除籍や処分が中止になる事がある
  • 北栄町が実施した除籍プロセスは、ICOMの倫理規定にほぼ準拠している。
    特に、コレクションポリシーの意義見直し、再評価のプロセスをしていることが重要。
    (←学芸的動機、哲学的動機が含まれていた

●除籍、処分の日本の現状

  • 日本博物館協会の調査結果、半数以上で、所蔵品の保存キャパシティが、「7-9割程度、満杯、入りきらない」と回答。
  • 博物館法(1951年公布)では、収集・保管のみ定義し、除籍・処分への言及無し。
  • 北栄町の博物館収集方針は、除籍を含めたという点で、日本唯一と言える。
  • 「お別れ展示」に見える課題
    ・台帳作成  → 公開、共有が無かった
    ・価値評価  → 専門家に一任されていた
    ・処分方法  → 個人に譲渡、廃棄された、備品に使われた
  • 台帳が公開され、幅広い関係者(又は市場)から評価され、公共性の増える機会(公開可能性、アクセシビリティの増加)に除籍されることが望ましい
  • 「公共性」:単に公共機関が関与するという意味ではなく、共有や公衆の参加など、より多くの人がアクセスできる(観える)こと。

【ディスカッション】(杉本裕史氏(北栄町生涯学習課課長)、成合氏、松田陽氏(東京大学准教授))

  • フォーラム実施前に抱いていた懸念
    除籍の「安易な模倣」を助長するフォーラムになってしまうという懸念
    文化財保護法改正が4月から施行されるのに、この時期に?という指摘への懸念
  • それでもやる理由は?
    未来永劫コレクションを増やし続けて行けば、早晩課題にはなる、その時に学芸・美術館・博物館サイドが何も考えていない訳にはいかない
  • 「持続可能な」コレクションとは、何なのか。
  • 「モバイルミュージアム」:死蔵するくらいなら、他においてもらう(病院、ホテル、民間企業)
    「ハンディング」 手に触って使ってもらうような展示
    →価値判断の中に、「用途」を一つの軸に入れてみる。
  • 美術品としての除籍は、「より適切なところに移る」という点であり得る。「寄託」作品では既に実質的な事例。
  • 北栄町の実践は、伝承館の分館が増えた、と捉えることができる。
    なぜなら、引受先が分かっているだけでなく、その保管、利用に関しても(緩いながら)約束事があるので。
  • 自然史博物館が持つ「タイプ標本」(※)は、ユニークピースであり、そこに権威を見出す運営サイドがあるものの、
    多くの人にとっては、タイプ標本である必要は無く、同じ生物の標本であれば目的は達することができる。
    (※)
    「タイプ標本」:生物の種別ごとににティピカルなモノとして世界に1つだけ認められる標本
  • 公開性において、インターネット(とそのビジネス)が果たした役割は大きい
    個人が持っているものを公開し、不要になったものをヤフオクとかメルカリに出す、
    その結果、必要な人間が探し、アクセスする可能性がある。
    インターネット(や関連ビジネス)が無ければ、死蔵されていったはず。
  • オブジェクトバイオグラフィー
    博物館、美術館に入った時点で終わりではなく、その後のトレースという考え方も出てくるのではないか
    但し、自然史や民具など美術品ではないものは数も考えると現実的ではない。しかも、コストを考えると公的機関にはできないだろう。

文化資源学研究室のHPでのフォーラム報告は、こちら
(記事執筆時点の2019年5月では未掲載でしたが、
 2019年7月3日掲載のご連絡をいただいたので、改めてリンクさせていただきます。)

文化資源学フォーラムHPは、こちら

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