京都造形芸術大学通信教育部芸術教養学科での課題で、「視覚文化」について考察しました。
(課題レポート提出時である2018年4月時点のままです。)

視覚文化「超」講義」(石岡良治 著 フィルムアート社 2014年)からの学び

「視覚文化「超」講義」(以降、本著と記す)では、著しく進む情報過多の社会において、多元的に存在する文化への接続方法(情報の収集や受容、批判、自らの発信)として、「可謬主義」と「レギュレーションの関係」を意識することが肝要であると捉えた。本レポートではこの点について考察したいと思う。

1点目として「レギュレーションの関係」について、考えたいと思う。本著では、以下の記述がある。
「アートとポピュラー文化の関係を、質の高低で区別するのではなく、コミュニティの違いで考えてみたい」。(※1)。例えば芸術のもつ卓越性は「全てを圧倒する卓越なのかどうかはわかりません。(中略)その卓越性は文化の「レギュレーション」ごとに異なる仕方で見出せるのではないか、という、相対主義に近い立場」です。(※2)
この点は同意見であり、少なくとも新しく発信される情報(スタイル、モノ、人、生き様など「文化」として受容される前段階のもの・こと)に対して既存の枠に捕らわれずにまずは受け止めて、自分自身の価値観に合致するかの吟味は行い、仮に合致しない情報であるとしても、否定することは避けたいと思う。
一方で、「アート・芸術」であるか、「ポピュラーカルチャー・サブカルチャー(以降、サブカルと記す)」であるか、を問わず、それらに共通的、あるいは、横断的な「選別」(優劣付け)が社会通念として存在すると考える。
漠然とした言い方となってしまうが、概して人間の本能にダイレクトに関連する内容(食欲、性欲)については、同じ「レギュレーション」の中に属する(同一の文化の範疇)の中でも別物扱いを長らくされてきた(或は、され続けている)のではなかろうか。絵画や写真又は文字文化(書、文学、エッセイなど)において、その文化が特に長い歴史を持つものであればあるほど、「食」についても、「性」についても、それらが題材となる場合には特別扱い(別枠)となる事が多い。それは、(特にキリスト教を根本に形成された西洋的な)倫理観に基づく判断に依存していることが多いと考える。
また、共通的・横断的な面ではなく、個々の文化間で価値の貴賤が社会通念上存在していることも否定はできないと思う。例えば、本著でもしばしば比較される「クラシック音楽」と「ポピュラー音楽」である。演奏の技術に関して優劣はない、または比較できないものであるにも関わらず、「クラシック音楽」に対して「高尚」さを認めてしまうのは何故であろうか。これも武満徹やジョージ・ ガーシュウィンなど、クラシック音楽とポピュラー音楽の垣根を融解するような作家たちの登場により、一層意味の無いモノなってきていると考える。
絵画と写真(アートフォト)においても似たような現状である。市場における評価(値段)は長らく絵画の方が各段に高かった(し、以前として高い)、しかし、これもアートフォトに対する評価が、容易に複製可能な製品から1点モノであることの認識に変わりつつあり、徐々にであるが優劣の差を埋めてきている。
しかし、これら広く社会に存在する差別の有無が重要ではない。そのような差別が存在することを認識したうえで、なお、各文化を知り(一度は受容し)、自分にとっての要否、意義付けを行う姿勢が重要であると考える。
次に、「可謬主義」について、考えたいと思う。
本著の考え方の前提事項(所与の条件)にもあるように現代は情報過多の時代であり、それが故に様々な「文化」が多元的に生成消滅している。その中で生き残り長らく継承されていくものもあれば、短命に終わるものもある。新たな文化(又はその要素)が情報として発信されるや否や、それを肯定・称賛し受容しようとする立場と同時に、それを否定・批判する(disる)立場も現れる。そのような情報のフローを見守る立場に立たされている我々は、どのように反応していくのが良いのであろうか。ここでも、まずは情報を受け止めて、自分自身の価値観との吟味を行うことが肝要であると考える。そしてそれだけではなく、とどめない速度の中で生成消滅していく文化の中でも、「不変であるもの、歴史的に継承されてきたもの、継承されていくべきもの」があるはずである。それを見極める眼力を持つ必要があるのではないだろうか。

その意味で、情報過多の真っただ中の現代を生きる上で、真の教養としてのリベラルアーツを身につけることが重要であると考える。

(参考文献)

課題レポート作成時の必読本
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その他の参考文献・参考サイト

「フィルムアート社」HP 作品紹介ページ
著者による作品のポイント解説動画
「PLANETSチャンネル」HP
「Daily PLANETS 石岡良治の視覚文化「超」講義外伝の記事一覧」
「好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS」HP
高山 宏(東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。大妻女子大学名誉教授)
による「視覚文化「超」講義」の書評
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